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逃げるのならば、そう、いまだ。 [過去ログ]

意識が遠くなる。

混濁してきているのが、分かる。

ふかしいも、か、しゅうまい、にでもなった気分だ。

午前11時ごろから、私の気持ちはもう固まりはじめていた。

「脱出」

である。

お昼休みの間隙をついて、トンズラをかますのである。

仮病を使う、という方法も考えたけれど、なにやらいろいろ面倒なことになると、面倒くさい。

トンズラしておいて、あとで

「すいません。体調が優れなかったので帰宅しました。」

と、申し訳なさそうに事後報告する、というのが一番よい。

もう、二度と会うことはないだろうし。

12時になる。

「をーし、飯(めし)いくぞ!」

チンピラの声が響く。

デスワゴンに積み込まれ揺られること20分、駅前のラーメン屋の前にいた。

「いまだ。!」

「逃げるのならば、いまだ!」

頭の中で、そのコマンドが呪文のように再生され続けていた。

簡単なことだ、ただふらりとラーメン屋に入店せずに、駅へ走ればよい。

心臓が、早鐘のように鳴り響いている気がした。

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生き返るそのジュース。 [過去ログ]

建築中の巨大な施設が視界に入る。

展示場のようだ。

「おい、にいちゃん、こっちにこい!」

感じの悪いチンピラのようなおっさんに呼びつけられる。

ここでタルそうにすると、このおっさんとの関係が悪くなり今日一日が、地獄に変わる。

そう察した私は、心にもない元気な声で返事をする。

「はい!」

敵を作らないための処世術である。

チンピラは、続ける。

「にいちゃんは、テゴをしてくれ!

こうやって、道具を手渡してくれれば良い、頼むど!」

どうやら、私の任務は、おっさんたちのお手伝い。

なるほど、これなら簡単そうだ。

私は、チンピラに命じられた道具を手渡す。

この作業を2時間くらい続けた。

あまりの暑さに、気が狂いそうだ。

建築中の建物の中にこもった悪意のある熱気は、精神を刈り取りそうなくらい強力だ。

10時になり、チンピラが声をあげる。

「よーし、休憩にするぞ。にいちゃん、わりいけどな、飲みもん買うてきてくれ!コーヒー4本な。

にいちゃんも好きなもんを買え。おつりは、駄賃や。」

「はいっ!」

返事だけは良くなるよう心がける。

私は、1000円札を受け取り、建物の外の幹線道路沿いにある、自動販売機へヨロヨロとすすむ。

コーヒーを4本買い、ファンタを2本買う。

そのうちの一本は、その場で飲み干した。

体の隅々の細胞に水分がシュワシュワと行き届く。

生き返る。

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体が喜んでいることが、わかる。

「逃げるか?・・・」

実は、もうずいぶん前からそのことを考えていた。

おカネならある。だが、ここは、超郊外。交通の手段がない。

逃げるためには、そうヒッチハイクくらいしか方法はないだろう。

夕方5時まで、あと何時間あるんだよ!

私は、かぶりをふる。

あと2時間もすれば、お昼休みだ。そこまで、そこまでは頑張ろう。

10時の休憩もとっている建築現場。お昼休みをとらないハズがない。

私は、お使いを頼まれたコーヒーを抱えチンピラの元へ戻った。



真夏の一秒 [過去ログ]

ほんの軽い気持ちだった。

おカネに困っていた訳ではない。

ただ、ノリで、「やってみるよ。」と返事をした。

ただそれだけのことである。

織田 裕二似の友人が、

「簡単な仕事っちゃ。日当6000円。どう明日だけど?」

と、私に持ちかける。

20年前、

学生だった私のその夏休みは、バイトも麻雀も順調で、

毎日スーパープラネットのモーニングで、5,000円入ってくるため、おカネには、全く困っていなかった。

だが、「時間を持て余していたこと」も事実だった。

明日は、夜の10時から、朝の8時まで、やにょとローソンでのバイト。

それまで、退屈なのだ。

ちなみに、やにょとは、高校時代からの友人?で、3つの特殊能力を持つ。

①みちをよくおぼえる。
②めおしがじょうず。
③きんせんかんかくがけつらく。

社会にでて、役に立つスキルは①しかない。

さらに、物事を深く考えないため、目の前の仕事は無条件に片付ける。

特に、やにょは、のりピーが大好きなので、ノリピーの話さえしていれば、とにかく何も考えずに働く。

まあ、結果として、何はともあれ、働き者だ、ということになる。

簡単な仕事らしいし、行ってみるか。夜はやにょとのバイトで楽だし。
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どんな仕事なのか、訊ねようか、と思ったが、知らないほうがワクワクできて、きっと楽しい。

人生には、楽しいこと以外、もう訪れないのだ。

母親をうしなって以来、絶対にどんなことでも骨の髄まで楽しんでやろう。

そんなことを、考えていた時期でもあった。

翌日、待ち合わせ場所へ、出向く。

時間は、朝6時。

朝モヤの中を、ワゴン車がよろよろとこちらに向かってくる。

錆びてスムーズには開きそうもない、力でドアを開け、私は、車の中へ。

むせるような、タバコの臭いが、私を出迎える。

缶コーヒーを片手の持ったおっさんが、数人たるそうに座っている。

そのうちの風采のよくない一人が、私に吐き捨てた。

「おいおい?あんちゃん?そんな格好で大丈夫か?あんま、なめんなよ?ああん?」

嫌な予感がした。
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