ラスベガス

出席カードを通すと、


カバンを自習室に放り込み


みな駅前に走る。


駅の裏のパーラー「ニューラスベガス。」


その日の小遣いを掴みにゆく。


なけなしの1,000円をコインサンドへ。


いつも、お金がなかった予備校生。


仲間の誰か一人が勝てばよい。


そのお金を回してみなで生きてゆく。


勉強もせずに、遊ぶことしか考えていなかった。


ラスベガス。ニューラスベガス。


そのパチンコ店の名前に、とてつもないロマンを感じていた。


キラキラしたネオンの嘘くさい感じが、


とても、後ろめたく魅力的だった。


30年前のあの日。


いつか、ラスベガスで全てかけた大博打を打ってみたい。


勝つか、負けるか、ただ、それだけだ。


パチンコ、パチスロ、麻雀、チンチロ、


ビリヤード、花札、桃太郎電鉄。


小博打に身を委ねて、汚れた、と感じたその瞬間、


人間の本当への旅が始まった気がする。


生活の中で小博打に身を任せながらも、


「いつか、ラスベガスで」


「いつか、ベガスで。」


そんなことを、思い続けてきた。


人生が傾く前に、一度だけ


本当の勝負をしてみたい。


人生を賭けたBET。


ゲームはそうだな。


ポーカーがよい。


ポーカー。


1度だけの勝負なら、そうだ。ポーカーがよい。


・・・・・・・・・・・・


競技麻雀プロのくまモンの服のひとから、


「ポーカー楽しいですよ。やりませんか?」


と、誘いを受ける。


ポーカー、という言葉の響きに、とてもときめく。


嬉しい気持ちのなか、不安になる。


わたしは、ポーカーを知らない。


いつか、ベガスで。


などと、思っているくせに、


実は全くポーカーの勉強をしていないのだ。


くまモンの服の人が続ける。


「初心者歓迎、ノーレートのサークルですよ。


みんな優しいひとばかりです。」


まじすか!


これは、ありがたい。


「ぜひ!」


とわたしは答える。


ポーカーだ。


ついに、ほんまもんのポーカーが、できる。


帰宅後、わたしは、ネットでポーカーの本と、


ポーカーの漫画を買いあさり、実戦の日に備える。




スペード、ダイヤ、ヘイヘイヘヘイ!


ハートにクラブ! ヘイヘイヘヘイ!




思わず口ずんでしまう。


自分にドン引きするくらいだわ。


カードはとにかくかっこいい。


不完全情報ゲームとしての麻雀。


「設定」や「くぎ」を読むパチンコ、パチスロ。


技術とメンタルのビリヤード。


これまで、つまみ食いしてきた


つたない経験も、生かせるかも知れない。


ポーカーってどんなゲームだろう?


真白い気持ちで、そのドアをたたく。


世界がひろがる。








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風が吹き抜ける場所

西風莊には大きな窓がある。
西と南。

涼しい風が吹き抜ける。

5月の空。

明日のみえない自分にとって

救いの場所だった。

店内を吹き抜ける風がいつか

自分を体ごと連れ去ってくれるのでは、

いつも、そんな風に思いながら

窓辺から空をみていた。

数年後、何も持たずに

ふるさとを離れることになる。

「あなたなら、大丈夫」

別れ際に、マスターから

いただいた言葉。

なにひとつ、積み重ねてなくて

なにも持ってなくて、

自信なんかひとかけらもなくて、

そんな旅立ちの時に

果てしなく勇気の生まれる言葉を

もらった。

新幹線のなかで、

「大丈夫って、思ってくれるひとがいるなら

もしかして、本当に大丈夫かも知れない。」

不安な気持ちを振り払うように

何度もその言葉を反芻する。

「西風莊」で学んだことを大切に。

学んだこと、それは、

麻雀でもなく、お金でもなく

ただ不器用に、どんなことがあっても

ほんのすこしでも

『ひとを大切にすること』

ひとかけらでもいい

これだけは、忘れないように、と。

できなくてもいいから、

忘れないように、と。

あれから14年。

今までも、西風莊の夢をみる。

あの心地よい5月の薫風をおもう。

いつか、長い旅が終わったなら

きっと自分は、あの場所に帰るのだ

と思う。

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