恐怖の代走② (麻雀) [麻雀]

「すいません、勉強させてください」
そう断わり、邪魔にならないように店の隅っこに陣取り、友人のメンバーの対局を観戦することにした。
リズムのよい押し引きのしっかりした対局を眺めながら、自分には、半荘一回で一万円以上動く麻雀は、無理だな、と改めて感じた。
 30分ぐらい過ぎただろうか?突然、千点500円以上のレートで打っているであろう、店の最深部の卓から、怒鳴り声が響いた。
「はやく、家に帰って10万持って来い!」
見た目も恐ろしければ、性格も恐ろしいその声の持ち主は、麻雀の種銭を、となりにいた奥さんに取りに帰るように命じた。
 ずいぶんと負けが込んでいるのだろうか?
その男がとてつもなくイライラしている様子が、見なくても痛いくらい伝わってくる。
私は、絶対の関わり合いにならないよう、努めてその男の方を見ないよう気をつけていた。
が、しかし。また、その男の怒声が店内に響き渡る。
「おい!代走だ!おい!早くしろ!」
お酒が入っているせいか、その男は半荘の局の途中、しかも親番の前に、いきなり代走を要求した。
嫌な予感がした。店内は、運悪くメンバー全入り。
その男の奥さんもお金を取りに店を離れているため、店内で空いているのは、私だけである。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。麻雀牌には触りたいけれど、あの男の代走はご免こうむる
。しかも、超高レート。冗談ではない。しかし、無情にも必然的に私に声がかかった。
「おい!そこの若いの!暇だろう?ちょっと代走してくれ。便所だ」
バイトがあるから無理だと、断わる私。だが、「バイトなんか、行かなくていい。おい。ちょっと、代走しろ!」と返してくる。なるほど、強烈に理不尽である。さすが無法者だ。
店内に不穏な空気が漂ってきたので、やむえず、代走を引き受ける私。
その無法な男は、「もう30万負けてる。おまえ、絶対振るなよ?」そう私に吐き捨てトイレによたよたと向かった。

「ええええええ。どんなレートで打ってるんだ・・?・・?」
夕方開店だから、まだ半荘3.4.回位しか打っていない筈だ。
殺される。振り込んだりしたら、間違いなく殺される。
点棒が減ったら、私の寿命も同じ位減るであろうことは、容易に想像できた。
対局者の横のカゴには、一万円札のズクが無造作に放り込んである。
万札ばかりだ。もしかして、デカピン?困惑している私に同卓者から「はやく切りなよ」と声がかかる。
ガタガタ震えながら、配牌から一枚切り出す私。クラクラしながら、冷静に手牌を見ると、東が二枚ある。
よし、こいつを安牌にしよう
。よく見ると、北や、発なんていういかした牌もいる。よし。牌を握ると気持ちも落ち着いてきた。
要するに振り込まなければいい。トイレ代走なんて、いいところ一局だ。
配牌からオリていれば、一局振らずにいなすことなんて、造作もないはずだ。
東2局南家。ドラは⑤ね。よしよし一枚もないぞ。これなら、アガリに向かう理由もない。
おとなしく、あの無法者の帰還を待つとしよう。そう決めると、安牌を貯め気味に模打を繰り返した。
3.4巡くらいして、私は強烈な違和感に襲われた。
ん。ん。なんか、いつもと違う。何か手牌、短い気がするにゃあ。気のせいかなあ。
あれ?なんで、俺、南家なのに、上ツモなんだろう?ひいふうみい。ひいふぃう。
・・あれ??あれ?12枚しかない。13枚あるはずの手牌が、12枚。
ええええええええええええ!!・・・?・?小牌! 

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