さて、またあの中学時代のヤツのハナシを。

中学生の頃って、割と、無敵である。

世の中にさほど恐れるものもない。


当時の私のぽけっつまねーなんていうものは、ビビたるもの。



サイフの中に2,000円もあればもうパラダイスである。

当時は、現在と異なり、食べ物や飲み物にお金を使うことは皆無だった。

もったいない、と思っていた。

それよりも、本や画材が欲しかった。

特に画材。

プログラフという製図用の0・3ミリのペンが欲しくて仕方なかった。

このペンさえあれば、きっとヤツみたいな線が描ける。

イキイキとした、躍るような線。

九州画材、という画材店が駅前にあって、毎週土曜日ヤツとそこへ出向く。

そこにある画材は、どれも高価でプロ御用達。

絶賛中二病の私たちなど本来は「お呼」ではないのだろうけれど、

ヤツの画材をみつめる視線はプロのそれを凌駕していた。

そうして、とある夏の日。

おこずかいが合算でプログラフに届く。

私は夢見る気持ちで、九州画材へ。

それから、連日、そのペンで模写を繰り返す。

ヤツは、絵を描く際、絶対に下書きをしない。

いきなりダイレクトに、修正不可能なペンを使用する。

その様がかっこよかった。

ある日、ヤツから、

「ゆうゆうくん。参加費用は500円かかるんだが、上映会に参加しないか?」

との誘いがあった。

ヤツは私のことを、「くん」をつけて呼ぶ。

その紳士然とした振る舞いもまた、ヤツの魅力だ。

だいたい上映会ってなんなんだよ?

500円って、安いよね?

当時は、レンタルビデオでさえ1,500円の時代。

というか、ビデオデッキを持っている人間もそんなにはいなかった。

その次の週末、ヤツと自転車で、その上映会とやらに向かう。

舗装されていない砂利道を、自転車のタイヤが屠る。

まだ、「知らないことばかりのこの世界」は、光り輝いている。