ブチョリーナが、指定券をとってくれていたにも関わらず、

わたしは、直立不動の姿勢で、窓の外を睨んでいた。

次発の特急「あずにゃん2号」に鹹くも飛び乗った私は、

当然座るべき席もなく憮然と、廊下に突っ立っていた。

いじるべき、ケータイも今は哀しきスマホ。全く使えない。

時間をつぶす術もない。


しばらくして、ドアが開き、子供の泣き声が、列車の廊下に響いた。

客室車両から、号泣した子供を抱いたご婦人が、おろおろしながら現れた。

はっきりいって、ハットリシンゾウクラスの鳴き声だ。

他の乗客のことを考えれば、廊下に出てくるしか対策はあるまい。

子供は、えんえんと、泣き続ける。

アイスを与え、お菓子を与え、必死でなだめるご婦人。

しかし、子供は、全然意に介さず、えんえんと、もうひとうおまけに、えんえんと、泣き続ける。

子供を、みつめる私。変だなあ・・。

なんだか、妙な違和感を感じる。なんだろう?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


よくよく観察すると、子供は涙を流していない。

「嘘泣きだな、このやろう、、、、、悪い子だ。」

わたしは、乗り遅れにはじまったこの残念な旅のせいもあって、イライラしていた。

そのストレスを全てぶつけるべく、子供を睨みつける。

「ふははは、大人を、社会をなめるなよ、小僧」

そう心で念じながら、子供をさらに、睨みつける。

ご婦人は、私に背中を向けている。抱かれた子供は、こちらを、私のほうを向いている。

すなわち、ご婦人に、私の修羅の形相が、ばれる心配はない。

子供の泣き声が、さらに大きくなった。つんざくような大声。

列車の音をも掻き消す勢いだ。

「ばーか、ばーか、泣けばなんとかなると、おもっとんやろう.,そうはいかんぞ」

そうおもいながらも、

私は、すこし愉快な気持ちになってきていた。わはははは。

まあ、いま思えば、ほんのすこし大人気なかったかもしれない。いま、おもえば。

と、そのとき、

あろうことが、子供が、泣きながらも、私のほうを指差した。

ふりむくご婦人。

「しまったー」

想定外な、子供の反撃。

咄嗟に素敵な表情に戻す私。

間に合わない・・。

キッ、と私を、一瞥して他の車両へ立ち去るご婦人。

どうやら、私が睨んで、子供を泣かせていた、ということになったのだろうか?

心の狭い私が、泣き声のうるさい子供と、ご婦人を睨んでいたことになったのだろうか?

いずれも完全に誤解である。

ちがうんですよ。その子供は、嘘泣きなんですよ。ずるいんですよ。

アイスとか、お菓子が食べたくて泣いてるんですよ。

そんなんじゃ、将来が思いやられる、だから、私が、心を鬼にして・・・・

私じゃない、だって、もともと泣いてたやんかあ。

心の中で、弁解をする残念な私。なんだか、近い将来も最悪な予感しかしない。

 ハンパない残念な旅は、まだはじまったばかり。

もう、九州帰りたいばい・・・・。